武力攻撃事態法を読む

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さて、いよいよ、個別の法律案について話をします。
先ず最初に取り上げるのは「武力攻撃事態法」です。
これは、小泉政権下の2003年に「有事関連3法」の1つとして成立した武力攻撃事態法の改正案として今国会に提出されているものです。
そこで、改正案に触れる前に、現行の武力攻撃事態法について、その内容の要点を整理してみます。実は、現行の武力攻撃事態法も、おそろしく危険な法律なのです。
この法律は、「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」を「武力攻撃事態」、「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」を「武力攻撃予測事態」、この両者の総称を「武力攻撃事態等」とした上で、「武力攻撃事態等への対処の基本理念、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本事項を定める」ものとされています。
ほーら。ここにもあったぞ。あの「あいまいさ」が。
「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」と 「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」
はい。誰か、この2つの違いがわかる人はいますか? いませんよね。「わかる」などという人がいたら、その人は、ペテン師か、よほどのバカかです。下の図を見てください。

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何とも、手作り感満載ですが、アナログ人間が、必死になってデジタル媒体で情報を発信しようとするとこういうことになるのです。それはともかく、黄色から黄緑色、そして青へと色調は「切れ目無く」変化しています。

これを見て、黄色・黄緑・緑・青の境い目がどこかなど誰にも決められないことはわかりますよね。
そこで、これに武力攻撃事態法を当てはめてみましょう。
青が「武力攻撃が発生した事態」、黄緑が「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫している事態」、黄色が「武力攻撃には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」とします。つまり、青と黄緑の部分は、法律が「武力攻撃事態」として防衛出動を認めている状況を表し、黄色の部分が法律が「武力攻撃予測事態」として防衛出動のための様々な準備行動を認めている状況を表していることになります。このように、法律が定める3つの「事態」の境い目は、決してはっきりしないのです。
となると、法律により、武力攻撃事態であるかどうかを認定する政府の判断は、その時の政府によってテキトーになされることになります。
「いやいや、そんなことは無い。きちんと国会の承認を必要としているのだから、政府が勝手な判断をすることなどできない」って?
ほら、またそういうたぶらかしを言う。時の政府は、国会の多数を占める政権与党によって作られています。だから、国会承認と言ったって、結局は、国会で多数を占める時の政府を支持する政権与党が、「多数決」と称して、政府の判断を追認するだけのことです。そんなことは、今の国会を見てもわかることです。

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さて、こうして政権がテキトーに「武力攻撃事態である」と認定したら、どうなるのか。
先ず、政府は、それに対する対処の基本方針を定め、それに基づいて対策本部を設置します。対策本部の長は、原則として内閣総理大臣がつとめます。
対策本部は、基本方針に基づいて、自衛隊に対する防衛召集、防衛出動待機、更には防衛出動などを発令したり、防衛出動を発令する前でも部隊の展開が予測される地域での陣地その他の防衛のための施設の構築を命じたりします。
それともに、法律は、地方公共団体や、指定行政機関(日本銀行、日本赤十字社、NHKその他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で政令で定めるもの)に対して武力攻撃事態等への対処に対して、必要な措置を実施する責務を負うとしていて、対策本部は、基本方針に基づいて、これらの諸団体の取る措置を「総合的に推進」することになっています。そのため、指定行政機関の長は、対策本部が設置された時は、「対抗措置を実施するため必要な権限の全部または一部を当該対策本部の職員である当該指定行政機関の職員等に委任することができる」としています。
わかりにくいよね。
要するに、対策本部が設置されたら、県市町村、赤十字、日本銀行、NHKなどの公共電波機関(テレビ局)、電気、ガス、輸送、通信などは、こぞって、対策本部の進める方策に協力しなければならなくなり、対策本部に、それぞれの団体の職員を出向させ、その職員に、それぞれの団体の全権を委任する必要があるということになるのです。
更に、「防衛出動」の際に、自衛隊は病院、診療所その他政令で定める施設を管理し、土地、家屋もしくは物資を使用し、物資の生産などするものに対して物資の保管を命じたり、物資を収用したりすることが出来るとなっています。
これは前記の「展開予定地内での陣地その他の防衛施設の構築」の場合でも、基本的に同じで、やはり、土地の収用などができることになっています。
これは、軍事徴用にほかなりません。
これは、まさに国家総動員体制なのです。
ていうか。専守防衛であっても、戦争をするあるいは臨戦態勢に入るということは、国家総動員体制に入り、国民の権利を制限しなければならなくなるということなのです。
まだまだ、見逃せない条文はたくさんあるけど、あまり長いのもなんだから、この辺にしておこう。

ともかく、既存の小泉政権下で制定された武力攻撃事態法とそれに連動して改正された自衛隊法でも、こんなに重大な内容を持っていたのです。

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それが、今回の改正法では、更に一層、たいへんなことになっているのです。
今回の改正のポイントは、既存の武力攻撃事態法で、政府による「対処」が発動する対象とされていた「武力攻撃事態」(さきほどの図で言うなら黄緑と青)と「武力攻撃予測事態(同じく黄色)の外に、新たに、「存立危機事態」なるものが加わっている点です。
「存立危機事態」が、昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定で示された3要件に基づくもので、「わが国と密接な関係のある他国への武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」なるものを指すことは知ってるよね。
この「存立危機事態」もまた、例によって例のごとしで、スゴークあいまいな言葉です。
それなら、もともとあいまいなものだったのだから、そこに新しくもう一つあいまいな「事態」が加わったからって、大した違いは無いのじゃないかって?
いや、いや、「存立危機事態」が加わることで、それまでの武力攻撃事態法とは、全く違ってしまうのです。
これまでの武力攻撃事態法は、曲がりなりにも専守防衛の枠内の法律だから、この法律による自衛隊の防衛出動等は、基本的には、日本が直接武力攻撃されたり、攻撃される危険が生じた時に限られていました。
ところが、改正案は、日本への武力攻撃が無くても、外国への武力攻撃でも、その外国がわが国と密接な関係があるなら、反撃のための武力行使を認めようというのです。これについて、「『これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある』という限定を付けている」と与党は主張しています。バカにするのもいい加減にしろと言いたい。さきほどの「事態」についての解説と同様、この「限定」なるものも、あいまいきわまるもので、どうとでも解釈することができる代物なのですから。
その証拠は、国会審議で、「ホルムズ海峡での掃海活動」を、具体的な例として挙げていることにあります。ホルムズ海峡の掃海活動を例とすることで、政権は、抜き差しならない自己矛盾の中に陥っているのです。
矛盾その1
存立危機事態というためには、「わが国と密接な関係のある他国への武力攻撃が発生」したことが必要です。すると、ホルムズ海峡の機雷掃海活動が、存立危機事態における自衛隊の活動に含まれるという政府答弁は、「ホルムズ海峡に機雷を敷設する行為=武力攻撃」と言っていることになります。これは、要するに、ある海域に機雷が敷設されているという状態は、そのこと自体が、そこで武力紛争・戦闘行為が現に行われているということになります。つまり、機雷除去活動のために自衛隊を派遣するということは、その戦闘現場のど真ん中に自衛隊を派遣するということを意味するのです。これは、存立危機事態の法律上の定義と、あたかも、戦闘行動と機雷掃海とは別であるかのように言い含めようとしている政権の国会答弁との矛盾です。
矛盾その2
政権は、機雷によって石油の輸入に支障が生じたら、それは「わが国の存立を脅かし」、国民の諸権利が「根底から覆される明白な危険がある事態」にあたると言っているわけです。日本が経済的に困窮するようなことになれば、国の存立を脅かし、国民の諸権利を根底から覆す明白な危険がある事態にあたるんですというわけです。これでは、どこまで拡大解釈できるかわからないということを、この答弁自体が示しているではないですか。法律の要件が、実は、限定にも何にもなっていないということを、機雷除去を例示することで政権自体が自白してしまっているのです。
それにしても、日本は、そんなに簡単に「存立が脅かされ、国民の諸権利が根底から覆される」のでしょうかね。石油が重要では無いというつもりは無いけど、それでもたかが石油じゃないですか。ホルムズ海峡経由で入手できなければ、直ぐに戦争しようなどと考えるより先に、別の手段を考えればよいのだし、こういう議論をする位なら、今から石油依存一色の経済からの脱却・切り替えや、偏った外交・国際関係から、多元的で多方位の外交・国際関係作りを誠実に追求すべきでしょう。
続きは次号

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