緊急事態条項の話 第1回(序章)

20160320_125720

「保育園落ちた。日本死ね」この悲痛な叫びを「便所の落書」と切り捨てた区議がいます。
「匿名だから、確認のしようがない」と答弁した安倍首相や、質問の声をかき消すように「出典はなんだ」「本人を出せ」「やめろ、やめろ」などのヤジを飛ばした自民党の議員たちの本音も、これを便所の落書のようなもので、まともに取り上げる必要は無いということなのでしょう。
1人の母親の悲痛な叫びとその母親がおかれている深刻な実情にまじめに向き合って耳を傾けるのではなく、聞こうともしないで簡単に切り捨てようとする姿勢は、今の政権のあらゆる政策に共通しています。
6人に1人の子が「子どもの貧困」といわれる実情におかれています。
低賃金・重労働の実情に、保育士や介護士たちが身体を壊し、生活を維持できずに次々と職場を去っています。
年収200万円以下のワーキングプアが昨年の暮には労働者人口の4人に1人(1139万人)になり、派遣やパートなど不安定雇用の労働者は増える一方です。
東北大震災と原発事故の被災者たちの救済は遅々として進んでいません。
毎年2万5000人もの人が自殺しています。自殺なのに遺書が残っていなかったために不審死とされているものなどを含めると、実際にはその数ははるかに多いでしょう。

平成24年の暮から既に3年以上も安倍政権が続いているのに、こうした問題は一向に解決していません。

それなのに、28年度の防衛予算は5兆円を突破しています。安倍首相は各国を歴訪して、大盤振る舞いでお金をばらまいています。こうしたお金は、社会保障費などをカットして、その分を振り当てられているのです。

要するに、今の政権は、国民が本当に必要としていることに耳を傾けるつもりもないし、国民を愛してもいないし、守ろうともしていないのです。

そんな政権が、昨年、「日本の安全と国民を守るため」といって、憲法学者の9割が違憲だという戦争法を強行可決しています。

そして、その同じ政権は、今年、またもや「国の安全と国民を守るため」と称して憲法を改正して憲法に緊急事態条項を盛り込もうとしています。

政権は、東北大地震や、パリのテロや、北朝鮮の動きや、中国の覇権主義的な動きを理由に、緊急事態条項は必要だと宣伝し、それに迎合するようなコメントをする「識者」も出てきています。

でも、緊急事態条項が、本当に「日本の安全と国民を守るため」に作られようとしているのか、大震災の時に本当に緊急事態条項が必要なのか、ここは良く考えてみる必要がありそうです。
そこで、これからしばらく、「野党や国民の理解を得やすい」と政権がいう緊急事態条項について、連載形式で、書いて行くことにします。今日はその第1回(序章)です。

人寄せパンダ
いまはあまり使われなくなりましたが、かってこういう言葉がありました。それは、上野動物園に最初にパンダが来たときにその絶大な人気がかってない入場者を集めたことから、何かをしようとするときに、人々に人気のある人物を看板にして人集めをしようとすることを言う言葉でした。言葉は使われなくなっても、これと同じように、何かをしようとしたり何かを売ろうとするときに、人をひきつけるような看板を掲げて、目的を達しようとすることは、羊頭狗肉の古い言葉にもあるとおり昔からあることです。
ですから、人寄せパンダ(宣伝・広告・パッケージ)だけに惑わされずに中身の商品そのものを見極めることが大切になります。
それは、本来、政治の問題でも同じはずです。政治家が国民の前に持ち出す政策は、全て、国民に受け入れやすそうな、口当たりの良い看板(パッケージ)をまとっています。それはそうでしょう。例えば、「国民から出来るだけたくさんお金をしぼりとって、原発がとまって息切れしている大企業を助けるために、この法律を成立させる必要がある」などと言うわけがなく、「全国民が、痛みを共有して、力を合わせて低迷する経済を立て直して危機を乗り越えて、国を守るために、この法律が必要である」とオブラートに包んだ看板をかかげなければ、国民の支持を得られず、法案を成立させることができないでしょう。もちろん、政治家の政策の中には、看板と中身が一致しているものもあることを否定するつもりはありません。それでも、私たち国民は、看板と中身が本当に一致しているのかどうか、看板が単なる人寄せパンダのめくらましではないかどうかをしっかり見極めていく必要があります。看板に偽りがなければ、それはそれで大変良いことだし、偽りがあるなら、そんな国民を偽る政策や法律などの成立を認めるわけにはいきません。
戦前、日本は、「世界恒久平和の確立」「五族協和」「王道楽土」「アジア諸国の植民地支配からの解放」「大東亜共栄圏の建設」などのかけ声(看板)を掲げて、あの戦争を推し進めました。今では、そうしたかけ声(看板)が、日本の帝国主義的な侵略と領土拡大要求という本当の姿をおおい隠す偽りの看板でしかなかったことは、歴史の事実が証明しています。ところが、当時の国民のほとんどは、こうした看板を真実と信じ切っていました。
信じていたから、戦争に反対する人を「非国民」「売国奴」だと本気で憎んで、自分のまわりにそういう人がいると、迷わず警察や特高に密告して差し出したのです。
信じていたから、あの南京入城の時に、国民は自然発生的に提灯行列で大挙してそれを祝ったのです。
戦前の国民が、そういう嘘の看板を信じつづけた最大の原因は、教育と情報統制そして弾圧です。
戦前の教育は、教育勅語の下にあり、特に日中戦争が拡大していく頃から、日本軍を皇軍と呼ぶようになるとともに、教育でも天皇の絶対化・神格化の徹底が図られていきました。国民は、天皇陛下の赤子(せきし)として陛下の大御心(おおみこころ)を体して、アジア諸国を欧米列強の植民地支配から解放し、世界恒久平和・五族協和の王道楽土を建設する聖戦の担い手として教育されていったのです。それでも、もし、当時の国民が、事実(真実)を知ることが出来る状況にあったら、いくら政府が国民を戦争賛美の方向に教育しようとしても、あれほどまでに国民が熱狂して狂信的なほどに日本軍の侵略行動を歓迎することはなかったでしょう。だが、実際には、戦前の情報統制(報道統制、言論・出版の自由への弾圧等)はすさまじいものがありました。高市総務大臣の電波停止発言が問題となりましたが、戦前は、新聞や雑誌・本などの発禁処分や、集会の禁止などなど、そして、それらに伴う関係者の投獄や処罰等が事実上無制限に行われていたのです。ですから、南京入城の時も、国民が知らされたのは、南京に皇軍は無血入城し、中国市民はこれを歓呼の声で迎えたとするもので、そこで起こっている凄惨な暴行・強姦・虐殺・略奪の事実は知らされていなかったのです。
それでも、あれだけの事実です。完全に国民の目から隠しおおせるわけにはいかず、漏れ伝わる事実を知って「世界平和の確立」「五族協和」「王道楽土」「アジア諸国の解放」「大東亜共栄圏の建設」などの美名の下で行われていることが、実際にはそうしたこととは全く相容れないことに気付く国民もいました。しかし、そうしたことに気付いた国民が、戦争に反対して行動を起こそうとすると、彼らを待っていたのは、有無をいわさない弾圧でした。こうして戦争に反対する声は、かき消されてしまったのです。
そして、いま、今年の参議院選挙のあと、政権は、憲法を改正して緊急事態条項を新たに憲法に盛り込もうとしているのです。緊急事態条項について政権は、「野党や国民の理解を得やすい」と言っています。政権のこの認識の背後にあるのは、「大災害やテロなどの緊急事態のときに、国民の生命と安全を守るための仕組みを作っておくことの必要性」を前面に押し出すなら、国民や野党は、受け入れるだろうという計算があるのです。それは、憲法調査会で、共産を除く他の政党が、緊急事態に対処するために憲法を改正することの必要性について一致して認めているという事実があるからです。既に政権側は、「大災害やテロ」対策を前面に押し出して、国民の支持を得ようとする宣伝を様々な形で始めています。
しかし、「大災害やテロなどの緊急事態のときに、国民の生命と安全を守るための仕組みを作っておくことの必要性」と言っても、それは、実は政権が憲法に組み込もうとしている緊急事態条項の看板の部分でしかありません。だとしたら、私たちは、その看板について「看板に偽りあり」なのか「看板に偽り無し」なのかを見極める必要があります。
緊急事態条項の中身に入る前の序章がいささか長すぎました。次回から、いよいよ緊急事態条項について、じっくり見ていくこととします。

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緊急事態条項の話 第1回(序章)」への1件のフィードバック

  1. 鈴木様、はじめまして。長野県で町会議員をさせていただいています。
    6月定例会の一般質問で「国民保護法と住民保護法」について質問するために資料を探していて、この頁にたどり着きました。「緊急事態条項」に関する詳細な論考が、大変参考になりました。ありがとうございます。

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