ホラーの定番 今ここにあるリアルなホラー

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猫がいる。その可愛らしい仕草に惹きつけられる。と、突然、その猫が振り返ると、真っ赤に裂けた口には鋭い牙がむき出され、目が釣り上がり、恐ろしいうなり声を挙げる。
子どもがいる。まだ就学前のあどけない子だ。無心に遊んでいる。カメラがその子に近づいていく。と、その子がカメラの方に視線を向けた瞬間、その子の顔が憎悪に満ちた表情にみにくくゆがみ、野太い大人のような声で、おぞましい呪いの言葉を吐き出す。

両親と手をつないで花咲く野を散歩する少年。少年にとって両親は、あくまでも優しく、どんな辛いことや悲しいことがあっても両親の下にいれば、そんなことを忘れて安心することが出来た。だが、それまで少年と楽しく会話を交わしていた両親の口数が次第に少なくなり、それとともに少年の手を握る両親の手の力が次第に強くなっていき、やがて、少年が、痛みを覚えるほどになる。「痛い!」と叫んで両親を振り仰いだ少年は、心が凍りつくような冷ややかで残酷な視線に射すくめられる。少年は、絶望と共に、一瞬にして悟る。あの優しく、暖かな両親はもういなくなってしまったのだ。ここにいるのは両親の皮をかぶった全く異質のおぞましい存在なのだと。

旅の途中で迷い込んだ田舎町。何の変哲も無い、というより、静かで清潔なたたずまいを漂わせる町。人々もみなおだやかで親切に接してくれる。すっかりその町が気に入ってしまった主人公は、その町に滞在する。だがやがて、主人公は、少しずつその町に違和感を覚えるようになっていく。そして、ついに、ある夜、主人公は、町の人々の正体を知ってしまう。

旅人を優しく受け入れて、暖かい粥を振る舞ってくれた優しいお婆さん。だが、夜中に旅人は、「シャッ、シャッ」という奇妙な音で眼を覚ます。音の正体を探った旅人が目にしたのは、旅人を料理するための巨大な包丁を研いでいる山姥の姿だった。

子ども達が、いつの間にか異星人に乗っ取られてしまうという「白い眼」。
などなど。

このように、ホラーの1つの定番は、「穏やかで、優しく、愛情あふれている存在」(善なるもの)という仮面の下に潜む「悪意に満ちた異質な存在」(悪なるもの)という設定、あるいは、「善なるもの」が、知らない内に、内部から「悪なるもの」に浸食され乗っ取られていて、それが突然そのおどろおどろしい姿を現すという設定である。私たちは、こうしたホラーを小説で読んだり、映画で見て、恐怖を感じても、「でも、これはあくまでも作り話なのだ。現実の世界ではこんなことはありえない。」と胸をなで下ろすとともに、ある種のカタルシスを感じてすらいる。

だが、いま、これが、現実に起こっている。それも、この国の片隅で起こっているのでは無く、この国すべてを根こそぎにする形で起こっているのだ。

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日本会議という組織がある。最近の政権の動きと関連して、一部のマスコミが取り上げるようになったが、それでもまだ、その存在を知らない国民の方が多いだろう。日本会議のホームページによれば、同会は、平成9年5月30日に、日本を守る国民会議と日本を守る会が統合する形で設立された全国に草の根ネットワークを持つ国民運動団体で、美しい日本を守り伝えるため、『誇りある国づくり』を合い言葉に、提言し行動する組織である。
日本会議の主張と行動は、次のようなものである。
①「神勅に由来する」皇位(同会発行誌『日本の息吹』の平成19年2月11日 「皇室祭祀と建国の心」と題する記事での元宮内庁掌典 鎌田純一氏の発言)を国民統合の中心と仰ぐ日本の伝統文化の尊重と回帰、
②押しつけられた東京裁判史観・自虐史観・卑屈な謝罪外交から脱却し、かっての崇高な倫理観を復権し、軽んじられ、忘れ去られ汚辱されてきた光輝ある我が国の歴史を青少年に伝える啓蒙運動
③伝統に基づく国家理念を構想した新憲法制定の提唱と運動

①は、毎年2月11の建国記念日に全国で取り組まれる『「建国記念の日」奉祝 記念行事」や、皇室参賀や、靖国参拝をはじめとする各種神社の行事への参加など
②の「東京裁判史観、自虐史観」を否定する「光輝ある我が国の歴史」観とは、 自存自衛のためにアジア解放のための聖戦を闘い、けっして侵略せず、戦争犯罪をしなかった我が国(自民党の「歴史・検討委員会」の結論)に対する誇りを取り戻すということだろう。
③は、民間憲法臨調の動きや、毎年5月3日を中心に全国で開催される自主憲法制定を求める集会などであり、そして、この団体の求める「新憲法」の1つの典型が自民党の憲法改正草案である。

ここにあるのは、戦前の国家観、歴史観そのものの焼き直しである。これを、アナクロニズムと切り捨てて済ますわけにはいかない。

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ここで再び「ホラーの定番」だ。
こうした思想と目標を持った集団が、それを正面から党の思想・目標として掲げる政党を結成して行動するなら、国民にもわかりやすい。ヒトラーや、東条英機や、石原莞爾や、甘粕大尉のような人物が、彼らが語ったような言葉で彼らが語った大東亜共栄圏や八紘一宇、神州不滅の思想を語って選挙を闘うなら、国民はまかり間違っても彼らに300議席を与えはしないであろう。そのことは、前回選挙での「次世代の党」の結果を見れば明らかである。
だが、彼らは、決して独自の政党を結成しようとはしない。その代わりに、既存の政党(それは自民党に限らず、民主党などの野党も含まれている)の中に浸食し、既存の政党を変質させるという戦術を採っている。
その結果、与野党の別なく289名もの国会議員が日本会議国会議員懇談会に参加し、現政権の閣僚のほとんど(19名中14名)が日本会議国会議員懇談会のメンバーで占められるようになっている。更に地方議会では、日本会議地方議員連盟に参加する議員が1691名に及んでいる。既に既存政党の内部侵食はほぼ完成の域に近づいているのだ。
こうして既存政党の仮面をかぶり、「神国日本の復権」を「美しい伝統ある日本文化の継承」と言い替え、「アジア解放のための聖戦を闘った日本の復権」を「誇りを取り戻し国と郷土を愛する国民を育てる」と言い替え、「西欧型民主主義の否定」や「憲法の平和主義への憎悪」を「戦後レジュームからの脱却」と言い替え、「教育勅語や修身教育の復活」を「教育の再生」と言い替えるなど、耳触りの良い言葉で国民からその本当の姿を隠すことによってこんなアナクロニズムの集団が政権を掌握するまでになっているのだ。既に自民党は、かってのあの自民党とは全く異質のものになっているのだ。そして、浸食がそこまで完成に近づいているからこそ、「八紘一宇」とか「軍国主義者と呼びたければ呼べ」とか「ナチスの方法に学ぶ」などという言葉がぽろりぽろりと漏れるようになっているのだ。
「これはもうクーデターだ」という人がいる。仮面をかぶって勢力を拡大し、主権者である国民の知らないところで権力を掌握するという意味で、確かにこれはクーデターなのだ。
まさに「ホラーの定番」が、今私たちの目の前で現実に起こり、妖怪が、この国を蹂躙しようとしているのだ。

それにしても、不思議なのは、どうしてどの政党も、安倍首相に「あなたは、歴史・検討委員会のメンバーとして、日本はアジア解放のための自存・自衛の戦争を闘った、日本は侵略していない、従軍慰安婦や南京大虐殺は史実ではない、日本は戦争犯罪は犯していないと戦争を総括しているが、日本の首相として、このような総括をどう考えているのか」と質問しないのだろうか。

ホラーの定番 今ここにあるリアルなホラー」への11件のフィードバック

  1. 知りませんでした。このような組織があること。 時代は逆行しているのでしょうか。 ホラーは映画など物語の中だけにしたいものです。 しかし、現実は物語より奇なのかもしれません。 このようなことを大真面目で考える輩がいるなど。

    私は、天皇に戦争責任があったと思っています。 天皇の人格は別として、きちんと天皇としての責任をとらなかったので日本人の多くは許されたと考えるのではないでしょうか。 でもこのようなことに真っ向から触れると、どこかから圧力がかかりそうな雰囲気を感じます。

    とにかく、自分自身は時流に流されなようにきちんと考え方を明確にしておきたいものです。 それには、情報も必要ですし少し勉強も必要ですね。 私の周囲には「そんな難しいことわからん」で済ます人が多いです。 わからないから知らん顔しているのも罪なことなのだと、どうしたら知ってもらえるのか。

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  2. 机器猫さま。コメントありがとうございました。「どうしたら知って貰えるのか」確かに、その通りで、みんなそのことで悩んでいます。齋藤隆夫の「反軍演説」ではないけれど、私が、この記事の最後に書いたように、国会の場で、正面から、安倍首相に、自民党の「歴史・検討委員会」の大東亜戦争の総括の結論をぶつけて問いただせば、国民の目に、安倍首相が本当はそんなことを考えているのかということが、白日の下にさらされると思うのですけどね。

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    • 机器猫です。本主旨とは関係ないのですが、うっかりしていました。
      机器猫とは、「ドラえもん」の中国語文字です。
      日本人です。機器でも猫でもありません。ご存じだったかもしれませんが、
      前回、書き忘れましたので(笑)

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      • 知りませんでした。何と読むのだろうと思っていましたが、勉強させていただきました。猫ードラえもんはわかりますが、机器は何を表しているのでしょうね。

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      • 机器猫・・・の机という字は、機という字の簡体字なのです。つくえ、ではありません。ですから、器械の猫(どらえもん)なのです。実際は器械じゃありませんけれど。ちなみに飛行機は、飛机(飞机)です。飛ぶ機械です。

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  3. 篤さん、はじめまして。
    ここ最近、やっと『日本会議』という存在までに到達することができました。
    知れば知るほど恐ろしくなり、これはまるでホラーだと思い、あちこち検索しているうちに、ここに行き着きました。

    日本会議についてまとめたものの冒頭に、篤のこの記事を転載させていただきました。
    事後承諾になって本当に申し訳ありません。
    さらにさらに、タイトルですが、篤さんの言葉を拝借させていただきました。重ね重ね申し訳ありません!

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  4. 今改めて読み直してみると、五行目の篤さんのお名前を、なんと呼び捨てにしておりました。故意ではございません!ほんとです、はい。幼馴染みたいな呼び方をして申し訳ありませんでした。

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